October 19, 2004

Leaving Traces : Songs 1994-2004 / Neal Casal (Fargo)

 ティフト・メリットの新作では、ゲイリー・ルーリス&マリア・マッキーと共に素晴らしいバック・コーラスを聴かせてくれたニュー・ジャージー出身のSSW、10年のキャリアを総括し、主要6作品などから18曲をまとめたベスト盤。商品に貼られた「WilcoやThe Jayhawksが好きな人にオススメ!」みたいな宣伝文句のステッカーが、いまひとつスパークしない彼の認知度の低さを象徴してますが・・・。1994年のデビュー以来、ほぼ毎年のペースで作品をリリースする多作家ながら、湧き出るアイデアをタレ流しているような印象をまったく与えずに、ふつう3年に1枚だろう、と思わせる丹精をこらしたガラス細工のような秀作を毎回届けてくれる彼の創作力には、本当に恐れ入ってしまいます(そんな彼の几帳面さにちょっと物足りなさを感じてしまう人は、彼のサイド・プロジェクトHazy Malazeも是非チェック!)。その優しい歌声と、素朴でデリケートなアコースティック・サウンドだけをもって、果てしなく広がる大地の息吹をスッポリ包み込んでしまうようなコズミックな佇まいは、ときに“グラム・パーソンズの化身”と評されるほどですが、それもあながち褒め過ぎとは言えないでしょう。諸作でプロデュースを手掛けているジム・スコットや、レコーディングのたびに招かれるグレッグ・リーズ、ドン・ヘフィントンらアメリカーナ界の重鎮の姿も拝めるレコーディング風景などを収めたDVD映像&未発表デモ音源12曲を収めた豪華ボーナス・ディスク付き。全身全霊を込めて歌を紡いでいく彼の真摯なパフォーマンスに釘付けになります。このベスト盤にも収録されているジョニー・サンダースの♪It's Not Enough をはじめ、Facesやジーン・クラークのカヴァーなどが収録された6月リリースの全曲カヴァー・アルバム『Return In Kind』も必聴。2005年1月には再来日公演も決定!(詳細はコチラ)必見です。

October 15, 2004

Time I Get Home / Dan Israel (Eclectone)

  ミネアポリスと言えば、なんといってもボブ・ディランとプリンスが有名ですが、この街が輩出したバンドとして、Hüsker DüやThe Replacements、Soul Asylum、The Jayhawks、Honeydogs、Semisonicなど、80年代〜90年代にかけて次々に産声を上げた大切なバンドのことも忘れるわけにはいき ません。主要音楽都市から遠く離れたこの地味な中西部の街に、なぜこれだけのバンドを生む土壌があるのかということについては、僕もいちど本腰を入れて研 究してみたいと思ったりもしてるんですが、いかんせんまだ一度も行ったことすらない街なもので。そんな僕が、これぞミネアポリス・サウンド!と叫んでみた ところで、全然説得力のかけらもないんですが、このダン・イズラエルこそ、僕のイメージするミネアポリス・サウンドを見事に体現してくれる人。隣接するカ ナダから南下してくる氷河の影響で"10,000 Lakes"という俗称で知られるほど湖の多いミネソタ州(とにかく寒いことで知られるその気候は、The Jayhawksの"Hollywood Town Hall"のジャケ写を見てもよくわかります)。その州都セントポールとともに、ミシシッピ川を挟んで双子都市(ツインシティ)を形成する州最大の都市ミ ネアポリス。ポピュリズム運動の拠点としても知られ、そのリベラルな土地柄のせいか、この街から生まれる音楽には不思議と“寛容”とか“誠実”という言葉 がよく似合い、虚勢を張らない普段着で等身大な彼らの姿勢に、僕はいつも心を打たれます。シカゴやオースチンでキャリアをスタートさせたダン・イズラエル は、98年にミネアポリスでThe Cultivatorsを結成。99年発表の2作目『Mama's Kitchen』では、土っぽいルーツ・ロック的な感覚を、溌剌としたパワー・ポップ的なアプローチでキャンバスいっぱいに描いてみせ、当時のオルタナ・ カントリー・ファンとパワー・ポップ・ファンを同時に魅了しました。その後、2000年と2002年にソロ名義でアコースティック・アルバム、2003年 にDan Israel And The Cultivators名義(ただしメンバーは総入替え)で1枚出していて、今作で通算6作目。トム・ペティにたっぷりシロップをまぶしたような甘く切ない メロディに涙の【1】【8】に、Vandaliasも真っ青のキッチュな(ゴメン!)パワー・ポップ・チューン【2】など、まさにオネスティの塊のような 1枚です。いまだにフルタイムの定職に就きながら音楽活動を続けているというダン様。絶対メジャーにはなれないと思うけど、いつまでもミネアポリスのローカル・シーンでマイペースな活動を続けていってほしい・・・と理不尽に祈り つつ、こういう作品にめぐり逢うたび、僕のミネアポリスへの想いは果てしなく募っていくのでした。

※ミネソタ在住日本人によるミネアポリス周辺情報サイト Cafe"Minnesota"

October 12, 2004

Dead Roses / Kasey Anderson (Resonant Noise)

 2001年発表のデビュー作『Halold St. Blues』がNo Depression誌から絶賛された(シアトルがある方の)ワシントンはベリングハム出身、弱冠(?)24才シンガー・ソングライターの2作目。カントリー・フォークなアコースティック・サウンドをバックに切々と歌う繊細な姿は、その声質のせいもあってどうしてもライアン・アダムスの二番煎じという印象を拭いきれないものの、危うさが売りのライアンとは対照的に、この人の売りはなんと言ってもこの素朴さでしょう。その素朴さが、自信のなさの裏返しのようにも映ったデビュー作に比べて、しっかりと地に足をつけた落ち着きの表れとしての素朴さに溢れた今作は、「やっと自分の声をみつけた」と開眼した彼の得た手応えがしっかりと伝わってくる誠実な1枚に仕上がりました。プロデューサーを買って出たエリック・アンベルの入れ知恵か(!)、スティーヴ・アール彷彿の【2】やストーンズ調ロックンロール【5】【8】などの派手めな演出が、本来の持ち味であるその他のナンバーを巧く引き立たせていて、アルバム全体のバランスも絶妙です。「ギター・サウンド」と言わずに「アンプ・サウンド」と言いたくなる、“機材オタク” エリック・アンベルのサウンド・メイキングも毎度のことながら最高(もちろんギター・プレイでも参加)。いま、アメリカ〜ンなギターの音録らせたら、この人の右に出る人いないんじゃないでしょうか。2001年に同じくエリック・アンベルのプロデュースでソロ作『Cripplin' Crutch』を出している裏方ベテラン・マルチ・ミュージシャン、ジョー・フラッドもフィドルで参加。ジャケ写も素敵です。

October 01, 2004

Open House / Eric Athey (Marchbrown)

  なんだかThe Jayhawks『Holywood Town Hall』のジャケット写真を思い起こさせてくれるペンシルヴァニア出身SSWのデビュー作。詳細なバイオグラフィが不明なので、年齢も定かじゃないんで すが、なんでもこれまで20年近くもの間、ひたすら地元のバーで演奏し続け、これがやっと初録音だとか。ニューヨークにある、かつてはバプティスト教会 だった小屋(ジャケ写の建物?)で、生々しく荒削りにライヴ録音されています。ボブ・ディランからの影響を色濃く感じさせる詩人のような佇まいと、ニー ル・ヤングを彷彿とさせるパッションを同居させ、素朴なアコースティック・サウンドをメインに、抜群の泣きメロを紡いでくれます。ややもすると単調な弾き 語りに陥りがちなこの手の作品に、フィドルやバンジョー、マンドリンを奏でながら温かな表情を宿すことに一役買っているのが、なんと彼の旧友という、Son Voltのマルチ奏者デイヴ・ボクィスト。Son Volt時代にも曲ごとに楽器を持ち替え、ジェイ・ファーラーの 横でひたすらクールな存在感を放っていたこの男の久々の カム・バック作という意味でも一聴の価値ありでしょう。残念ながら再始動Son Voltに はジェイ以外のオリジナル・メンバーの不参加が決まり、デイヴの代わりにはThe Backslidersのブラッド・ライスが加入(!)していますが、今後のデイヴの動向にも注目です。ちなみに、デイヴといえば、弟のジム(Son Voltのベーシスト)のことも気になってしまいますが、ジムは今作には不参加で、そのかわり、新たなボクィスト兄弟(?)、マークがドラム叩いてたりし ます。スプリングスティーンの爽やかヴァージョンみたいな【1】が最高。

※ポール・ウェスターバーグがバック・バンドにボクィスト兄弟を起用?(詳細はこちら